帝都から程近い草原を歩いていた旅人は、頭上をすさまじいスピード
で横切った影を見た。



001;始まり。





青い空、白い雲、そんな心地の良い日。
地に住む者にはとどかない遥か空に”彼ら”は居た。

「いい風だ。」

”は大きな大きな体を風に流し、悠然と空の覇者たらんという竜である。
彼のその美しい空色の体と、その風格、そしてスカイブルーの目の力強い光によって目が三つという明らかに異様な状態を不思議に思う前に魅入ってしまい、地に住む者でなくても思考を止めてしまうだろう。竜が人の言葉を話している事にさえ気がつかないかもしれない。
しかし、そのに乗る者は実に言葉に詰まる雰囲気をもっていた。

「そうだね。すこし、雨の匂いが混ざっているのが残念だ。明後日の夕方は雨かな?」

その男の名は。黒いタンクトップと青いジーパン、額に黒いバ
ンダナをつけているだけというなんとも軽いいでたちの彼は、腰に掌大のウエストバ
ックを下げていた。旅人にしては軽装すぎる。そう思って彼の顔を見ると、いやおう
にも目に付いてしまうのは、彼の目であった。左右対象に整然と並ぶ黒曜石のような
二つの目の周りには、一瞬でそれとわかるほどの”クマ”が出来ていた。深く強く鋭い力を放つ目と対照して、人はなんとも不思議な気持ちになってしまう。
顔の造りはけして悪くない、いやむしろ良い方だろう。しかし、声色や口調に似合わ
ず表情がピクリとも動かないことが他人を近寄りがたくしていた。

「目的地も見えてきた。用を済ましたらすぐに帝都へ向かえば、雨には打たれないだ
ろう。」
「でも、レックナートさんにはしばらく連絡していなかったから簡単に放してくれる
かわからないなぁ。」

彼らの目的地である魔術師の島が見えてくると、は着陸態勢を整えるために上空で減速した。そのため、は彼の角から右手を放して額に持っていった。額を親指でバンダナの上から撫でるのは、なにかを考え込んでいるときや悩んでいるときの彼の癖である。

「なんでも良いが、掴まれ。降りるぞ」
「おっと、」

が反応を返す前に降下しはじめたので、慌ててに掴まる。通常の竜騎
士は竜に手綱を着けるが、は竜騎士でもないしに綱を着けたくは無い
ので直接角に掴まっている。

急降下、こちらの力と同じだけ襲ってくる風に姿勢を低くして耐えながら、これから来る衝撃にそなえる。

グオオォォッ!!

ドオォン!!!

が地面ギリギリで翼を動かし、上昇気流を作る。その急な浮上感の直後、着
地の轟音が閑静な森に鳴り響いた。彼が着地した地点は陥没し、あたりには土埃が舞
っていた。ゆっくり体制を起こすと、の背中からの重さが消える。先
ほどまで自分の背中に乗っていた男を横目で見て、次いで反対側へ首を振った。

「けほっ・・・、乱暴だなぁ。」

土埃に咽ながらに抗議するが、いつもは何かあるはずの反論が返ってこない。不思議に思い見上げると、は相棒が自分とは反対の方を向いていることに気がついた。何かあるのかと思いの陰から出ると、これでもかっ!というほどに口と目を見開いた一人の子供と一匹の黒竜が居た。

「「「・・・・・・・・・」」」
「・・・・今日は?」

は彼が人語を理解し、使用する事を知っている人以外の前ではまず口を開かない。普通の竜は人の言葉など使わないのだから、他人から見たら普通の事だ。
 大抵、を初めて見た人の反応は一様だ。その美しさと堂々さに飲み込まれて声も出なくなる。しかし、今回はあまりにも常識はずれで乱暴な着陸に対する驚きも混じっているのだろう。の呼びかけに少年は気づいた様子も無かった。は魔術師の島に着くといつも、この島のお気に入りの場所へ飛んでいく。今日も例に漏れず、が困っているのを尻目に(と言ってもの表情にそれは出ていなかったが)一人飛んでいってしまった。

「竜騎士君?」
「・・・・・・・・っへ?!あ、あの」

が飛び去ってもまだその影を追っていた少年に気づいてもらうために再度呼びかける。

「ああ、よかった・・・。初めまして俺は。今飛んで行ってしまったのはっていうんだ。君は?」
「え、お、俺は見習い竜騎士のフッチで、こいつはブラック・・・・です」
「よろしく。ところで、竜洞騎士の人が居るということは此処に誰か来ているのか
な?」

ようやく回復してくれた少年・・・名をフッチと名乗ったが、見習いといえど竜騎士が
此処に居る理由は一つだろう。は大方予想をつけていたが、確認のためにめい
っぱい愛想よく笑顔を出そうとして(結局失敗して、奇妙な顔になっていた)聞いた。しかし、フッチはの柔らかい口調と変な顔のアンバランスに戸惑って、なかなか言葉を出せなかった。は何とか訪問客の事を聞き、その人たちがそろそろ帰ってくることがわかり、フッチとブラックに礼を言ってからレックナート塔に向かった。

「あれ、あの竜の額・・・」

のこされたフッチは、の額に通常無いものがあったような気がしたが、隣に
いるブラックを見て気のせいで片付けた。




























―――
―――






























「こんにちは、レックナートさん。久しぶり。」

レックナート塔に到着したはレックナートの部屋まで上っていった。此処まで
来る間に訪問客とは会わなかったが、を迎え入れてくれたということはもう帰
ったのだろう。

「こんにちは、。お久しぶりです。今日は如何したのですか?」
「いや、特には無いんだけどね。こっちの方に来からレックナートさんには挨拶して
おかないといけないと思って」
「ふふ、相変わらずですね」
「まあ、顔が動かないのは変わって欲しいけど」

レックナートと会うのは何年か振りと言う所だがその時から今のような喋り方と表
情だったので、本当に変わっていなかった。

「ところで、いい加減に部屋の外で様子を伺っている人を紹介してくれてもいいんじ
ゃないかな?」
「そうですね。いらっしゃい、ルック」
「はい、レックナート様」

ルックと呼ばれた少年は扉を開かず、何も無い空間へ突然現れた。綺麗な顔をしてい
るが無愛想なルックは不躾にをじろじろと見ていた。

「この子はルックです」
「ハジメマシテ、僕はレックナート様の弟子ルックです。」
「初めまして、俺は。以後よろしく」

は一生懸命愛想よく笑顔を作ったつもりだったが、失敗したようだ。
咳払いをして、しかし・・・とつづけた。

「レックナートさんが弟子をとるなんてどんな心境の変化かな。」
「いいじゃないですか」

ルックは鉄のように無表情のと女神のように微笑むレックナートを見比べて、
まるで違う世界に迷い込んだ気持ちになった。

「どのくらい此処に居てくれるのですか?」
「そうだね・・・・・・、天気が崩れそうだから明日には発つよ。此処だとこれがい
らないからついつい長居してしまうのだけど・・・。」

といっては、これ、と指した額のバンダナをゆっくりと外す。

「−−−−−っ!!??」
「ああ、久しぶりの太陽の光だ」

バンダナの下から現れたモノは、ルックを驚愕させた。

そこにあったものは・・・

 ”目” 

であった。

明らかに異質な存在。二つの目のさらに上、額のど真ん中にそれは位置している。ロ
ットが下の目を細めると、上の”目”は逆に大きく開かれた。
ルックはその違和感にただ、驚いていたが、下の二つとは違う深い深い海の色をたた
えた美しいそれに
---吸い込まれてしまいそうだ
と思った。
が目を開き、”目”が閉じられるとルックは我に返った。

「驚いたかい?こいつは『黄泉の目』。俺たちはそう呼んでいる」
「・・・・・・・・・・あんた、”何”?」

警戒している事を明らかに示してルックが言った。

「俺が何か。それは簡単な質問だ。俺は・・・、人間だ」

ゆっくり、言い聞かせるようには言った。

「人間!?人間の額に目なんかない!あんたのは紋章じゃない、本物の目じゃない
か!!」

しばらく何かに耐えるようにして、ルックは姿を消した。その時、が呟いた言
葉にレックナートは俯いた。

「君も、人間だよ」






















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はい、第一話でした。書き直しちゃって
すみません。もうちょっと綺麗な文を目
指して見たのですが玉砕してますね(泣)
もっと文の書き方を勉強しないと・・・・・・
何か良い方法は無いものですかね。